【共著者に聞く】創造性をはぐくむ「場」とは?

2020年4月25日(土)の午後に『職場の現象学』のオンライン出版記念講演会が開催されました。露木恵美子ゼミの現役生や卒業生を中心に30人以上の方々が参加しました。

最初に共著者である山口一郎と露木恵美子が対談。その後、参加者が4~5名のグループに分かれ、対談を受けて著者への質問を挙げました。このシリーズでは、講演の中で答えきれなかった質問を中心に回答していきたいと思います。

質問:
今後Zoomなどオンラインも主流になることで、リアルの機会が少なくなり、関係性、コミュニケーションが変化する中では想像力、言語化が必要だと感じるがどのようにすれば創造的な場がつくれるか?

(今日の回答者:露木恵美子)

オンラインとオフラインは二項対立ではなく、ハイブリッドに

アフターコロナ時代は、オンラインかオフラインか、バーチャルかリアルかといった二項対立のように語られることが多いのですが、今後はオンラインとオフライン、バーチャルとリアルのハイブリッド型の場が主流になるのではないかと思います。

今まで使い方に慣れていなかったバーチャルな場においてのコミュニケーションが、新型コロナウイルスの影響で必要不可欠になり、そのなかでバーチャルの良い面やリアルでしかできないことなどが、徐々に明らかになってきているのではないでしょうか?

バーチャルは物理的な距離の制約を超える

バーチャル(オンライン)にはバーチャルの良さがあります。ひとつは空間を超えていろいろな人が集える点です。バーチャルな場であれば、通信機器とWifiなどの通信環境さえ整っていれば、物理的な制約条件を比較的簡単に超えられます。海外とのやりとりや、障害や病気、家庭の事情などで外出が困難な人も、気軽に参加できます。リアルな場に集えないというハンディキャップをなくすことができるのです。

バーチャルだから乗り越えられる遠慮の壁

バーチャルのもうひとつのよい点は、一人ひとりが意見を言いやすい点です。たとえば、チャットの機能などを使えば、普段はあまり発言しない人も書き込みをすることで、自分の意見や疑問を発信することができます。

声を出すのは難しくても、考えたことを同じタイミングで書いてもらうことは、他人の目を比較的気にせずにすむバーチャルな場で有効だと思います。声の大きな人だけの意見が通るのでなく、声の小さな人の意見も、それぞれが一つの意見として取り上げられることで、異質な意見の融合が容易になることさえあります。間身体性の働きで、普段は微妙な雰囲気を察知して言葉を発することを遠慮していた人も、間身体性が働かないからこそ自由にものが言えるということもあるのです。

オフラインの場でこそ創造性は育まれる

バーチャルな場での交流ができ、いろいろな議論がかわされたうえで、それをリアルに結びつけることで、より創造性が育まれることもあります。リアルな場の良さは、さまざまな情報を身体(五感)を使って感じ、言葉を介さずとも伝えられること。言葉にならないことでも、一緒に手や身体を動かしたり、その場に「共にいる」ことで、自然に伝わってくることがあります。

言葉にならない暗黙知の交流です。言葉にならない暗黙知の交流を通して、実は感覚と結びついた言葉やモノが出来上がってくることがあります。創造には、人と人との交流が不可欠であり、ひとりで創造的になろうと頑張っても創造性が生まれてくるわけではないのです。

オンライン会議では伝わらない「情報」がある

残念ながら、バーチャルな場では暗黙知の交流は困難です。そこに身体と身体が一緒にないので、お互いの感じていることを伝え合うことが難しいのです。オンライン会議で、参加者がミュートにしているなかで話をする場合、相手の顔の表情やちょっとした仕草といった反応が読み取れなくて苦労することがあります。まるで壁に向かって話しているようで不安になります。これも、その場に共にいることで感じている細かな表情の違いや息遣いなどが、感じられないことが原因です。

オンラインとオフラインを行き来することで交流が深まる

バーチャルな場でお互いの「人となり」がわかり、そこでの交流が生まれた後にリアルな場で出会うと、より話が盛り上がったり、余計な前置きなしに問題の本質に迫ったりすることができます。すでにバーチャルな場での言葉でのやりとりで基本的な信頼関係ができあがっているから、相手にどう思われるかを気にせずに、コトの本質に入り込めるのです。

逆もしかりです。リアルな場で基本的な信頼関係があったからこそ、オンラインの会議をしなければならない局面でも、リアルと同じように話が弾むということもあります。われわれは、バーチャルな場を活用することにまだ慣れていないので、隔靴掻痒の感はあり、いろいろな工夫は必要でしょうが、バーチャルな場を介して限られたリアルな場(暗黙知の交流)を有効に使うこともできるでしょう。

リアルな場の貴重さをどう活かせるかが問われている

リアルな場での交流が難しくなった今、我々が気づくのは、リアルな場がいかに貴重であるかということです。いつでも会えると思っていた人たちと会えなくなる、愛する人が亡くなっても最後の言葉をかけることさえできないという状況になって初めて、人と人との出会いや対話の大切さが身に染みます。「今ここ」を全身で実感できるリアルな場をどのように創造性に結びつけられるのか?この問いが、創造的な場づくりを目指す全ての人に問われているのです。

Follow me!